天然素材である漆を探究し、その可能性を広げたい
漆はウルシノキの樹液から作られる天然の塗料です。石油から作られる合成塗料よりも環境への負荷が少ないため、近年改めて注目されている素材の一つです。透明度の高い漆や、粒子を細かく分散させる新たな製法の開発など、性能を向上させるための研究を行い、漆の新たな活用方法を模索しています。
研修生に高度な技術・技法を伝えながら、個々の表現力を引き上げる
伝統産業技術後継者育成研修漆工コースは、京漆器製造の後継者育成を目的とし、漆工に関する基礎知識と高度な専門技術・技法を修得するための研修事業です。
実践に即した漆工技術の研修で、募集人員を限定し、研修生の希望や技量に応じた表現方法を身につける実習カリキュラムです。塗漆から加飾まで一連の流れを学ぶ漆工コースと、加飾の習得を中心とした漆工応用コースがあり、隔年で実施しています。
文化財修復をサポートする高い分析技術を提供
文化財は、時間の経過とともに劣化していきます。後世に残し伝えていくためには、適切な修理・修復を行う技術が必要です。使われている材料や手法を正確に調査するために、分析精度の向上や新しい測定法の検討に日々取り組んでいます。漆に限らず、膠(にかわ)や胡粉(ごふん)などの日本古来の天然材料にも対応しています。
試験分析の例
- 塗膜、プラスチック、ゴムや印刷インク等の促進耐候性試験機を用いた劣化試験
- フィルム、金属製品、プラスチック製品等における分光光度計を用いた分光特性試験
- 熱分解ガスクロマトグラフ質量分析計を用いた有機物の微量分析
- 卓上型核磁気共鳴装置による定性・定量分析
- 漆や膠等の天然物由来の塗材のFT-IR分析
- 塗膜やプラスチック等のユニバーサル硬度計を用いた硬さ試験
主な取扱設備機器
分光光度計
- 日立分光光度計 U-4100、(株)日立ハイテクノロジーズ社製
促進耐候性試験機
- スーパーキセノンウェザーメーター SX75、スガ試験機(株)社製
超微小硬さ試験機(ユニバーサル硬度計)
- フィッシャースコープ HM2000 Xyp、(株)フィッシャー・インストルメンツ社製
熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)、熱分解装置 EGA/PY-3030D
- GC-MS QP2010SE、(株)島津製作所社製、フロンティア・ラボ(株)社製
核磁気共鳴装置(NMR)
- Pulsar HFC、オックスフォード・インストゥルメンツ(株)社製
最近の活用事例
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漆の可能性が広がる
これまでにない光沢と透け感のある漆を開発株式会社佐藤喜代松商店
業種:伝統産業
対応分野:塗装・漆工 -
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3D-CAD/3Dプリンタ技術を活用した押型成形による漆塗り磁器の製作
suosikki
業種:伝統産業,窯業
対応分野:デザイン/塗装・漆工/陶磁器・ファインセラミックス -
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伝統産業ものづくりをデジタルで”三歩先”へ
(有)晋六、アトリエYOU、suosikki
業種:伝統産業
対応分野:デザイン/塗装・漆工/金属/陶磁器・ファインセラミックス
最近の研究成果
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漆及び植物油の光劣化による構造変化について
対応分野:塗装・漆工
筆者:池永 誠、橘 洋一
2023年度発行 -
熱分解ガスクロマトグラフィー/質量分析法による漆塗膜の検出限界の検討
対応分野:塗装・漆工
筆者:池永 誠、橘 洋一
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温度に対するウルシオールの粘度変化について
対応分野:塗装・漆工
筆者:橘 洋一
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漆ラッカーゼの至適pHの測定
対応分野:塗装・漆工
筆者:池永 誠、橘 洋一
主な研究シーズ
漆の新規利用技術
開発した高光沢・高透明度を有する漆を使用し、漆塗りの新たな製品開発に向けて取り組んでいます。要求される塗膜性能(耐久性・塗膜物性等)を満足するための塗装設計を行い、漆塗りの高級感を生かした建材、家電製品、日用製品等の開発を支援しています。
文化財修復における塗膜分析技術
古い塗膜を調査する上で、様々な状態(塗膜片状、粉状など)や複雑に混じり合った状態での試験片を分析する必要があります。京都の誇る文化への貢献を目的として、より正確な情報を得るための分析技術の確立を目指しています。