DATA
- 成果
- 新商品開発 / 特許取得
- 業種
- 伝統産業
- 対応分野
- 塗装・漆工
- 支援方法
- 共同研究 / 連携先紹介
- 企業・組織
- 株式会社佐藤喜代松商店
- ポイント
-
- 新たに高い光沢感、透明感のある漆を共同開発(特許取得)
- 今後、ガラスやプラスチックなど、新たな材質への用途展開が期待される
漆の用途展開を目指して
Q.開発に至る経緯を教えてください。
漆は工芸品に使用するもの、というイメージがありますが、その質感を活用し更に用途を広げたいと思っています。過去には産技研と、屋外でも使用できる3本ロールミル精製漆を開発し用途展開を進めてきました。ウルシノキから採取した「生漆」は油分(ウルシオール等)と水が混ざった液体であり、攪拌機でまぜながら熱を加えて水分を少なくする「精製」という工程を経て、塗料として使用する事が多いです。3本ロールミルの精製は熟練度が必要で、その再現性に課題がありました。産技研で生漆中の水分を更に短時間で高分散させるため、生漆に「薄膜旋回分散法」という、化粧品や医薬品製造に使用される手法を適用した新たな漆の開発が進められていることを聞き、興味を持ちました。
膨大なデータと粘り強い研究により、これまでにない光沢感・透明感のある漆が完成
Q.今回開発された漆について教えてください。
産技研では薄膜旋回分散法による精製条件を検討いただきました。生漆中には酵素(ラッカーゼ)が含まれており、ラッカーゼの働きにより漆の塗膜生成(硬化)が始まります。条件 によっては、このラッカーゼの働きが弱くなってしまうため、ラッカーゼの働きを保ちつつ、油分と水をしっかりと分散させる条件を検討することで、最適な条件を導き出せました。
新たに精製できた漆は、従来の漆と比較して高い光沢感・透明感が有り、産技研と佐藤喜代松商店の共同で特許出願し、権利化することができました。また、分散条件によっては、漆の硬化時間を短縮することも可能と考えられ、その用途展開には様々な期待を持っています。
新たな材質への展開も
Q.この漆はどの様な商品に使用されているのでしょう。
今回、再整備された京都市役所本庁舎1階のエレベーターの扉に採用されました。新しい漆の高光沢感、高透明感といった特徴が見事に活かされ、蒔絵をデザインした金の加飾と相まって、とても美しい出来栄えとなりました。また、この漆の特性を活かし、今後、ガラスやプラスチックといったこれまで漆が使用されてこなかった透明な素材への活用を展開していければと考えています。
100年先に残るものを、共に
Q.最後にメッセージをお願いします。
産技研の工芸・漆チームの皆さんとは、漆の基礎的分析、3本ロールミル精製漆(MR漆®)、MR漆塗り自動車の研究開発を経た40年以上の信頼関係があります。私自身が家業である漆屋を継ぐきっかけとなったのも産技研の研究員の方々がいたからです。地道な分析と研究から新しいアイデアが生まれ、商売へと育っていく。課題を見つけ、解決する方法を考え、実験して答えが見つかる。その過程は楽しいことです。 時間をかけて生まれた研究成果には長い期間をかけて社会に役立っていく役割があると考えます。100年残るものをともに作りましょう。
担当チームから一言
薄膜旋回分散漆は、何千年の歴史を持つ漆と現代の先進技術が融合することによって生まれた新しい漆になります。この漆の開発において、積極的に試験を行い、且つ、商品化まで達成されました。今までにない製品の登場が楽しみです。
PROFILE
株式会社佐藤喜代松商店
株式会社佐藤喜代松商店
所在地:京都市北区平野宮西10番地
電話:075-461-9210
URL:https://urusi.co.jp/
事業内容:漆の精製、販売、捺染スクリーン製版資材販売、漆工芸教室、漆製品OEM