先進的な合成技術で機能性ナノ材料の研究開発に挑む
左 平尾 一之氏( 株式会社New-Tech 技術顧問) 右 永嶋 浩二氏( 同社 プロジェクトマネージャー)
株式会社New-Tech プロジェクトマネージャー 永嶋 浩二 氏
産技研では、地域企業が抱える様々な技術課題を解決するため、技術相談や機器利用、依頼試験・分析、共同研究などの各種メニューを用意し、技術支援を行っています。
今回、ご紹介する京都大学発ベンチャー企業の株式会社New-Tech(京都市伏見区)は、ナノ粒子合成技術による材料開発を業務としており、産技研の機器利用や簡易受託研究などをご活用いただいています。同社は、「世界中の産業を持続可能で効率的な材料によって変革させること」をビジョンとし、イノベーションの推進に取り組んでおられます。同社プロジェクトマネージャーの永嶋浩二氏に、最先端の技術開発とその社会実装の取組についてお話を伺いました。
産技研の技術支援メニューを活用しながら最先端の材料開発を推進
―― 産技研をどのように活用されていますか?
当社では、研究開発事業と輸入代理業務の二つの事業があり、産技研には、研究開発事業についてご協力をいただいています。
研究開発事業では、「こういった材料がほしい」というお客様のご要望に基づいて研究テーマを設定しています。最初の契約段階で設定したテーマの最終目標に向けて、必要な合成方法や合成目的物をつくるための評価方法などを私たちがある程度検討し、設計図を作成します。京都市成長産業創造センター(ACT京都)※1にある研究室では材料の合成に専念し、完成した試作品の簡易的な評価は社内で実施しています。
その結果をもとに、選りすぐった材料を産技研に持ち込み、依頼試験・分析や機器利用、簡易受託研究制度などを活用しております。
―― 現在、どのような研究に取り組まれていますか?
機能性ナノ材料の合成に関する研究事例の一つとして、フェムト秒レーザー※2を用いた金属ナノ粒子合成を行っています。
たとえば、当社が開発した、表面に特殊なコーティングをすることにより水と混ざりにくい性質(疎水性)を持つナノ粒子は、オイルの中に分散させても、長期間にわたって均一に分散状態が維持できる特異性を持つ粒子です。実際、数か月経過しても分散状態を維持し、150℃のオイルの中で長時間攪拌しても凝縮・沈殿せず分散状態が保持できることを確認しています。
このような研究開発の結果を評価する際に、必要な試料について産技研の研究員の方に相談し技術指導を受けた後に、当社で調製した試料を産技研に持ち込んで、ICP発光分光分析装置で微粒子の成分を定量することができました。また、産技研の簡易受託研究制度を使い、示差熱分析、熱重量測定及び揮発成分の質量分析が可能な熱分析装置を用いて、微量成分の評価をしていただきました。
※1 公益財団法人京都高度技術研究所が運営する産学公連携による研究開発拠点です。化学分野の研究開発を行う企業・大学等が入居するスペースを提供。最先端の技術シーズを着実に事業化につなげる研究プロジェクトを推進しています。
※2 フェムト秒レーザー:フェムト秒(10-15秒)のパルス幅で発振するので粒子内の化学結合を分子レベルで切断できる優れた超短パルスレーザー。
人とのつながりを大切にしてくれる良き相談相手
―― 産技研に今後期待することは?
産技研は、気軽に相談できる身近な存在として、いつも親身に話を聞いてくださり、とても助かっています。また、相談するといつも何かしら貴重な提案をいただけます。開発に必要な装置は維持費の問題もあり、スタートアップにあるベンチャー企業が簡単に投資できるわけではありません。
産技研は、そのような装置購入の企業負担を軽減するだけではなく、装置を扱うために必要な技術指導にも対応してくださるんですよね。こうした支援体制から、産技研はただ装置を貸し出すのではなく、他社との交流が深まるような研究会※3を立ち上げるなど、人と人のつながりを大切にしてくれる機関なのだと感じています。今後も、知識をもっと深めていける幅広い分野の勉強会が開かれることを期待しています。
※3 伝統産業から先進産業までの各技術分野において、技術課題の解決や事業推進を目的として「研究会」を設置。現在10分野の研究会が活動しています。
「アメーバ的な技術・人材ネットワーク」を支える「架け橋」に
京都市成長産業創造センター センター長/京都大学名誉教授
平尾 一之 氏
現在の日本は、著しい経済成長は望めない中、企業そして法人化された大学でさえも基礎研究への取組が難しく、中途半端な状況にあります。大学発ベンチャー企業は数多く出てきているものの、先端的な事業化を進めるに当たり、高度な分析・評価・合成などの装置が必要不可欠であり、スター卜アップで足踏み状態にあるのも事実です。
このようなときにこそ産業界や学界を支えていく、架け橋のような役割が地域の公設試験研究機関に期待されています。幸いにも京都では産技研をはじめ多くの支援機関があり、ものづくりを担う優れた人材とベンチャー企業を育ててきた「アメーバ的な技術・人材ネットワーク」と呼ぶ伝統的な組織があります。これにより大企業や中堅企業と中小ベンチャー企業、さらに地域や海外の大学にまで広がる先端技術ネットワークがつながっており、京都発イノベーションが今後、次々と起きることでしょう。産技研には、今後もこのネットワークを支える重要な架け橋を担っていただけることを期待します。
PROFILE
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