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京北町の中硬水が生み出すキレの良い酒|羽田酒造

2022.12.29
INTERVIEW
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~「京都酵母」で京の酒に新しい風を~

 京都中心部より周山街道を北西へ車で約1時間、丹波高原の中央に京北町はある。一面の北山杉に抱かれて流れる上桂川支流の弓削(ゆげ)川は、6月初旬から7月初旬頃になると満天の星空の下、蛍が乱舞するほどの清流だ。この自然豊かな京北の地で、令和5年で創業130年を迎える羽田酒造は美酒を醸す。寒暖差が激しく、冬には-10℃ほどに下がることも珍しくないが、酒造りには絶好のコンディションだ。

 主な銘柄は「初日の出」「羽田」。創業以来の銘柄である「初日の出」は、ネーミングの縁起の良さから正月用の酒として大変好評だ。羽田酒造が仕込みに使う弓削川の伏流水は硬度130の中硬水で、銘醸地として知られる京都・伏見の水よりもミネラル分が豊富。絶妙な酸の味わいと、きめ細やかで喉ごし良く、キレのある味わいが特徴のこの酒は、京都の和食シーンに採用される食中酒として、同じ地元、伏見の酒とは違った彩りを添える。「京都に遊びに来る観光客は京都で和食を食べることが多い。せっかくだから地元京都の酒を飲みたい、というニーズも大きいので、特に京都の飲食店、居酒屋などでうちの酒質が一つの選択肢として受け入れられている」と代表取締役社長の羽田正敏氏は自信をのぞかせた。

 もちろん、銘水を仕込み水に使うのみでは羽田酒造の美酒は醸せない。製造を行うのは築100年を超える木造の伝統的な蔵で、商品の一部に杉の伝統的な木桶を採用している部分も重要なこだわりだ。使用する米にもこだわりがある。五百万石、京都限定の品種「京の輝き」などと共に、平成4年(1992)から復活した京都の酒造好適米「祝」も使用する。蔵の敷地内にある1.5反(約15アール)の自社田で蔵人が土作りから収穫に至るまで丹精込めて育てた「祝」を商品に使ったものもあるほどだ。「祝」は心白が非常に大きく低蛋白質で、酒造適性が高い吟醸酒向きの酒米なのだが、背が高く倒伏しやすいため、非常に手がかかる。「お酒には造り手の姿勢が現れる。だから、酒造りはもちろん、米作りにも、全てにおいて作業を正しく丁寧に行うことを心がけて作っているんです」と製造部長の原田浩雄氏は愛情を込めて語る。

 以前から、羽田酒造は京都市産技研「京都酵母」の「京の琴」を「初日の出 吟醸 木桶仕込み」に採用してきた。本格的なタッグを組んだのは、原田氏が、令和元年(2019)京都市産技研に「これまでにない味と香りをもつ新商品を開発したい」と相談してからだ。ここで、原田氏は、当時まだ名前もなかった「京の恋」酵母に出会い、自社で試験醸造してみることを決断する。

 令和2年(2020)2月、試験醸造が始まった。酒米には五百万石を採用した。出来上がった17.5%の無濾過生原酒は、フルーティーないちごのような香りを持ち、リンゴ酸が高い、白ワインのような味わいの酒になった。「羽田酒造のこれまでのラインナップにない、素晴らしい酒質の酒ができた」と羽田氏と原田氏は喜び、同年3月、テスト販売したのち、晴れて令和3年(2021)3月、「初日の出 純米大吟醸 無濾過生原酒」として本格的に発売した。同年2月に名付けられた『京の恋』という酵母のネーミングについて「とてもキャッチーで良い」と羽田氏は喜ぶ。さらに、「若い世代を含め、日本酒に馴染みのない方にも、京都の和食と楽しんでもらえれば」と羽田氏は期待を込めた。

初日の出 純米大吟醸 無濾過生原酒

 羽田酒造と京都市産技研の二人三脚はこれにとどまらない。燗酒用酵母「京の珀」の試験醸造を手掛け、「普段使いの酒として、日常の食シーンに寄り添っていてほしい」との原田氏の思いから、本醸造、ひいては普通酒に採用したいと計画している。「京の咲」についても、試験醸造に対して前向きに取り組む。

 「京都の米、水、そして京都市産技研の京都酵母で、京都に根ざした酒を造っていきたい」と羽田氏は夢を語った。これからも羽田酒造と京都市産技研は、京都の日本酒シーンを盛り上げるかけがえのないパートナーであり続けるだろう。

(文・山口吾往子)

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