名水に磨かれた品格ある酒|山本本家
~オール京都の酒を産み出した最強タッグ~
江戸時代、京都の豪商・角倉了以が高瀬川を整備して以降、大阪と京都を結ぶ舟運の港として栄えたまち、伏見は、兵庫県の灘とともに銘醸地として名を馳せた。伏見の老舗、山本本家の創業は江戸時代初期の延宝5年(1677)。伏見の七名水の一つ「白菊水」を仕込み水とする。鉄分が極端に少なく酒造りに適したこの名水が、山本本家の代表銘柄「神聖」「松の翠」を生み出す源となる。
山本本家の酒は、創業以来、京料理や茶懐石などの和食との相性を重視し、食事を引き立てていく品格のある食中酒として磨き上げられてきたもので、京料理と調和する優しく繊細な味わいが特徴だ。「京都の伝統文化や茶道との深い結び付きの中で、料理と酒、お互いがお互いの味を引き立てる食中酒を目指している」と11代当主の山本源兵衞氏はいう。山本本家は以前から表千家と親交があり、「松の翠」は表千家の茶事で使用される御用達の酒として唯一認められたほどの由緒ある酒だ。
山本本家は、伝統を守り抜くとともに、時代のニーズに合わせる日本酒造りと技術革新を行ってきた。平成元年(1989)から、機械化された大型仕込みと、昔ながらの伝統的手仕込みの、いわば「二刀流」で酒を醸す。しかし、「手仕込みだからいい酒、機械仕込みだから悪い酒ということではない。大型の機械仕込みでも機械を動かすのは最後には人。その日の気温や湿度、酒米の状態によって、機械の設定を微妙に調整しなくてはならない。一歩先を見て酒造りをする分、機械の大型仕込みでもフルに五感を使い、細心の注意を払う」と中田勇一郎製造部長は苦労を語る。
それとともに、酒造りで一番大切なのは人、チームワークだと中田氏は強調する。「会社内の笑顔がないと絶対いい酒は作れない。従業員みんなが、年齢の壁なく気軽に話し合い、意見を自由に交換し合える環境を作るべく努力している」という。良い酒は造り手の笑顔から生まれるのだ。
以前から、山本氏は京都市産技研が事務局を担当する京都酒造工業研究会の委員長を務めるなど、京都市産技研とは関わりが深かった。平成28年(2016)、伏見区三栖の圃場で栽培した京都府特産の酒造好適米「祝」を使った伏見産の純米酒を作るプロジェクトが立ち上がった。この際、「ならば京都市産技研が独自に開発した京都産の酵母を使おう」と山本本家が提唱。新しく育種選抜されたばかりの「京の咲」を使用した、米、水、麹、そして造り手まで「オール京都の酒」の商品開発が、「京都酵母」と山本本家のチームワークの始まりだった、という。こうして、「京都酵母」の中でも冷酒向きの酵母「京の咲」を使用した、「純米吟醸 神聖 祝」が完成、これまで以上にフルーティーで酸味がある日本酒として好評を博した。以来、京都市産技研と山本本家のチームワークは続いている。「お互いに切磋琢磨して、試行錯誤しながらいい酒ができるように頑張っています」と中田氏は微笑んだ。京都市産技研への信頼は厚く、「しょっちゅう、造りに疑問が生じた時など、『これ、どうしたらいいでしょうか』と気軽に相談ができる関係を築いています」ということだ。
「京都酵母は完成品ではなく、技術の蓄積でより良い酒を目指せる。今後も京都酵母の価値と認知度を上げていってほしい」との山本氏の激励に、中田氏も強く頷いた。「京都酵母は成長途中、まだまだいいものができてくると思う。現在、京の咲、京の恋の2種類に加え、今年から京の琴を使用していく。様々な個性を持った酒が生まれる可能性を感じる。うちも技術を磨いて対応できるように頑張りたいし、ゆくゆくは、京都酵母を使った他の蔵の醸造技術者で集まって交流を深め、各蔵の京都酵母を使った酒を唎酒して、みんなで話し合いをしてみたい。」と中田氏は夢を語った。京都市産技研の京都酵母と山本本家は、今後も切磋琢磨しながらよりよい酒を協働して創り出していく最強タッグを組んでいくに違いない。
(文・山口吾往子)
その他のストーリーを見る
当ページの本文及び画像の転載・転用を禁止します。
- #山本本家
- #蔵元インタビュー
- #京都酵母ストーリー