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若手伝統工芸作家・職人のご紹介 京漆器 加藤友理

2017.12.20
INTERVIEW

 京都と香川で漆芸を学び、他分野の方との共同製作など、常に新たなものづくりに挑戦している加藤友理さん。京の伝統産業わかば会、京都職人工房、京都漆器青年会など様々なフィールドで活躍されている加藤さんの作品への思い、様々な方とのつながりについて語っていただきました。

「漆」の道へ

 漆との出会いは高校時代。美術高校の漆芸科で漆を学び始めた。特に漆などの工芸が好きだったということでもなく、漆でかぶれることも高校に入って初めて知った。高校の3年間は製作課題を必死にこなす毎日。卒業後の進路指導の中で(地独)京都市産業技術研究所(以下、産技研)の研修のことを聞き、受講を決めた。
 産技研の研修では、より一層深い技術と自ら考えて製作する難しさや大切さを学んだ。それまでの自分を塗り替えられたことで、今の基礎を構築する機会となった。同期の研修生は年齢層が幅広く、社会人としての周囲との付き合い方も学ぶことができた。この頃はまだ、漆の仕事をしていくかどうか、はっきり決まっていなかった。
 研修中はとても充実した日々だった。研修の同期生の中には漆業界を離れてしまった人もいるが、今でも連絡を取っている。仕事で困ったことがあると相談し合うこともある。産技研の先生たちは、今でも個人的な悩みなども聞いてくれる父母のような存在だ。

「産技研の研修旅行で香川県漆芸研究所に見学に行ったとき、初めて見る 彫漆※1 という技法に魅せられました。研修を修了して1年間は香川に引っ越す資金を貯めるために働いて、翌年から3年間香川で学びました。」 

※1 彫漆 漆を何回も塗り重ねてその表面を彫り、立体的な美しい模様をつくり出す技法。

         彫漆箱「bride」

香川には象谷(ぞうこく)塗りや後藤塗りなど特殊な塗り方もあり、昔から漆が地域の産業として根付いている。香川県漆芸研究所の多くの先生は日本工芸会で作家活動をしており、技術はもちろんのこと、作家としての生き方を学んだ。

つながりの大切さ

 香川から帰って来てから3年間、修業というより手伝いという形で、産技研研修時の講師であった三木啓樂さんの工房でお世話になった。手伝いを通じて、独立するための必要な考え方、仕事の進め方などを教えてもらった。個展をするときの大変さも肌で感じていた。

 「三木さんは色々考えて先を走ってくれているので、今でもその背中を見て学んでいます。三木さんと出会えたのは産技研のおかげですね。産技研の研修は多くの修了生を輩出しているので、つながりがたくさんあります。最近、友達の陶芸家が実は同時期に産技研で研修を受けていたことが分かったんです。略歴見たときに一緒だねって。染織、陶磁器、漆工と分野は違うが、展示会やグループ展となどで一緒になることが多いので、そのつながりで仕事のやり取りをすることもあります。」

 独立する時も将来について余り深く考えていなかったが、ようやくこの業界でやっていく気持ちが芽生えた。
 漆は定盤と呼ばれる机1つと室(むろ)があれば最低限のことができる。自宅にある室は畳半間の押し入れに入るサイズ。温度と湿度が調整でき、漆を塗った後の硬化と埃除けに使っている。染織や陶磁器ほど設備投資は必要ないので、気軽に始めることができた。独立後は三木さんの工房でお世話になっている間にできたつながりなどで、少しずつ仕事をもらうようになっていった。

 今は様々なところでの展示販売や、グループ展、展示会に約2箇月に1回のペースで出展している。場所は京都、奈良が多いが、首都圏で開催される展示イベントにも出展している。営業活動は特にしていないが、人とのつながりを大切にしていることで、最終的に営業につながっていることがよくある。工房にこもって作業をしているだけではなく、外に出てコミュニケーションを取ることも大切。
 今回のインタビューをインターネット上で紹介してもらえることもありがたいことだと語る。自身でホームページを製作するのは時間的にも予算的にも厳しいが、様々なところに取り上げてもらえれば、自分のページが増えることにつながる。展示会などで名前を見て、ネット検索する人も増えており、ネットを見たと声を掛けられる。作品はつくり手の顔が見えたり、製作に対する思いが伝わると大切に使われる。ネットなどを介して、お客様ともつながっていく。

仕事は断らない

 「独立してから今まで、仕事はできるだけ断らないようにしています。とにかく仕事を受けて、納期に間に合わせるようにしています。忙しいからといって受けなければ次いつ声を掛けてもらえるか分からないし、納期を守り、仕事の質を維持しなければ信用がなくなってしまう。得意先から急な仕事を頼まれても、できるだけ引き受けたいと思っています。」

 初めから無理だと決めてしまうとその先はない。まずは何でもやってみる。難しそうだと思ったら、産技研の同期や縦のつながり、横のつながりに頼ってみるのも一つの手。周りは見ているので、頑張っているからと仕事の依頼がきたり、納期を考慮してもらえることもある。
 外に顔を出さず、製作だけに没頭していると、そのつながりも構築できなく、最終的に仕事を断ることになりかねない。製作と外向きの活動で多忙になり、疲弊している人も多く、両方のバランスをとって活動していくことはとても難しい。それが伝統工芸技術後継者全体の課題の1つではないかと語る。

自分に落とし込んで取り入れる

 今後、作品をつくるうえで目指すことは、香川で習得した彫漆という技法と京都で学んだ蒔絵を組み合わせて作品にすること。彫漆は漆を何十回も塗り重ねるので、技術にこだわると、一つつくるのに最低でも1年は掛かってしまう。
 お店などに置いてもらう商品は、そういった作品とはつくり方を全く変えている。作品は自分の思いを全部ぶつけて、価格や製作期間は度外視するが、商品は作品をそのまま転化して自分の思いだけでつくっても売れない。自分や身近な人達であればいくらで購入するかを考え、その価格帯でできる仕事を考えていく。様々な価格帯に柔軟に対応できるふり幅を持つことが大事だという。

 「目新しいものが好きなのはいいことだと思います。漆工に限らず、興味を持ったことにトライしたり、陶器、染織、竹工など様々な分野のものを見て、それを自分の中に落とし込んで、取り入れています。トライしてみて自分に合うか、それがつくりたいものかどうか判断していけば、自然にやりたいことが決まってくると思います。最初から決めてしまうと身動きが取れなくなってしまうので。」

 他分野の作家との交流も多く、一緒に作品をつくることも多い。錫(すず)の職人と茶托をつくったり、 陶芸家と 陶胎漆器※2の展示会をしたりと多数の共同製作を行っている。今はつづれ織の作家との共同制作を企画している。
 漆は様々なものと調和しやすい素材だという。共同製作は何でもやってみる柔軟さが必要だ。
 ※2 陶胎漆器 陶磁器の上に漆を施した器のこと。

         陶胎漆器          
 (赤絵細描作家 種田真紀氏との共同製作) 

家族、周りの支えに感謝

 「この業界は続けていくことがとても大変なので、とにかく続けられるように頑張っています。辞めるか、辞めないかという岐路に立ったとき、時間を置いたり、考え方を変えたり、誰かを頼ってもいいと思います。続けていれば、誰かは必ず見ていてくれるので。」

 家業を継いで漆工をしている人もいれば、私のように家とは関係無く漆工をしている人もいる。生まれや育ち、条件は人それぞれ違うため、絶対の方法はない。これから漆の道を目指す方にも、自分のやり方を模索ながら、進んでいってほしいと願う。

 「仕事をしていく上で家族の支えは不可欠だと思います。親や配偶者、子供にどれだけ理解してもらえるかですね。伝統工芸の技術を持っていても、初めからそれで生活していくのは難しいので。とはいえ、製作時間を割いて他の仕事をすると、一手二手遅れてしまい、どんどん漆から離れていってしまうと思うんです。」

 やる気があっても生活が懸かってくると難しい。根を詰めてしまうと体に変調をきたしてしまうこともあり、心身ともに健康なことも重要。仕事で切羽詰まって身動きが取れない時など、周りから声を掛けられるとすごく救われる。逆に仲間の調子が悪そうな時は、一緒に食事に行ったり、気分転換に誘ったりもする。支えてくれる人達に対する感謝の心を忘れない。

(平成29年9月、三木啓樂氏工房にて)

PROFILE

加藤 友理(カトウ ユリ)

平成13年度みやこ技塾京都市伝統産業技術者研修 漆工本科コース 修了
平成14年度みやこ技塾京都市伝統産業技術者研修 漆工専科コース 修了

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