
将来を見据えた決断が、事業拡大をスピーディーに推進
三彩工房株式会社 代表取締役社長 峪 博(さこ ひろし)氏
産技研の人材育成プログラムであるORT(On the Research Training)は、企業の研究開発・技術力向上を効果的に支援するため、1990年から京都市内中小企業の技術者を対象に実施しています。ORTを実際に利用され、そこで得た技術を活用している企業のひとつが三彩工房株式会社(京都市右京区)です。京友禅の染色技法「型友禅」で用いる型紙製作に取り組む企業がORTへの参加を決めたきっかけは、業界が抱える課題を見据えた、将来のための事業展開にありました。当時の想いを峪社長に伺いました。
―― ORTに申し込まれた経緯と感想をお教えください。
ORTを受けたきっかけは、産技研に事務局を置く京染・精練染色研究会のセミナー「汎用カッティングプロッターを用いた型紙自動作成システム」です。このシステムは「将来必ず役に立つ技術だ」と思い、セミナー参加後にORTの3ヶ月コースに申し込みました。当社は少人数で多くの業務に対応している状況にあったため、ORT参加中は社員の通常業務への対応が難しくなり、会社としては一時的な損失になる可能性もあったのですが、経営者として将来的な費用対効果を見越して決断しました。
産技研の研究員の方からは、データ作成や機械操作などをご指導いただきました。良かった点は、一方的に技術を教わるのではなく、私たちの現場で使うことを想定し、コミュニケーションを取りながら進めてくださったところです。弊社社員と相談しながら一緒にカリキュラムを組み立てたり、実際の使用状況に合わせたアドバイスをいただいたりと、現場で活用しやすいように研究員の方が導いてくださいました。研修を受けた社員は、型紙を彫刻するカットデータをデザインソフトのAdobe製Illustratorで作成することに特に苦戦していたようです。大学でソフトの操作などはある程度学んできているものの、専門的で分からないことが多すぎたようで、研究員の方に何度も質問しながら技術を身に付けてくれました。ORTが終わってからも「また行きたい」、「担当者の方と話がしたい」という声が聞かれたので、社員にとっても充実した学びの時間になったのだと思います。



―― ORTを利用したことで、どのような成果がありましたか。
技術導入がスピーディーに進みました。カッティングプロッターの機械導入についても、補助金制度の申請書にORTへの参加予定を記載できた点が事業への本気度をアピールする有効な手段となり、補助金の採択につながったのかもしれないと感じています。ORTへの参加で、機械というハードと技術というソフトの導入に向けた準備がしっかりとでき、システムを使った型紙生産をスムーズに開始することができました。
ORT後は、研究員の方にいただいた操作マニュアルを参考にしながら、現場で使いやすいように型紙自動作成システムを改良し、振袖の型紙を4柄分彫刻しました。1柄分で約250枚の型が必要になるので、合計1000枚ほどの型紙をシステムで彫ったことになります。通常、型紙の職人として一人前になるには10年かかるといわれています。しかし、カッティングプロッターなら10年かけずともORTで会得した技術をもとに、若手かつ少人数で高精度の型紙を製作することができます。これは、職人の高齢化問題・後継者不足が深刻な業界にとっては大きなメリットです。実際、現在システムを担当しているのは20代と30代の2名の若手職人です。また、どんな熟練の職人でも、手彫りでは実際の絵柄との線にわずかな誤差が生じるものです。システム導入前も絵柄の再現性が気がかりだったのですが、今のところ1枚もずれることなく精度の高い型紙を納品することができています。これもシステム導入によって得られた成果です。



―― 今後の事業展開についてお聞かせください。
カッティングプロッターを導入したことで、沖縄や新潟といった京都以外の型染産地や、神具をつくるために型紙の職人を探している宗教法人などから依頼を受けるようになりました。職人不足は全国的な課題ですので、今後もますます業界や地域を超えて事業が広がっていくのではないかと期待しています。また、レーザー加工機を使って型染友禅のデザインを活かした木製食器の商品製造や販売にも現在取り組んでいます。
このORTの利用を通じて、産技研が非常に優れた技術と知識をお持ちであることを実感しました。今後も産技研が新たな技術を生み出してくださることを願い、これからもお世話になりたいと思います。
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