産技研独自の技術シーズ研究開発
共同研究や受託研究などに、是非ご活用ください。
ここでは、科学研究費助成事業(科研費)の研究課題4件※をご紹介します。文部科学省による本事業は、学術研究の発展を目的とする競争的研究資金で、独創的・先駆的な研究に対して助成されるもので、産技研の研究員は研究力、技術力のアップと地域産業への貢献につなげるために積極的にチャレンジしています。競争的資金を活用した研究につきましては、下記フォームよりお気軽にお問い合わせください。
※ 以下の研究は、JSPS科研費 JP21K04683、JP21K14659、JP21K14421、JP21K14448の助成を受けたものです。
セラミックスの熱に強いという性質をいかしたまま接合ができるフィラーを開発
セラミックス接合界面での非平衡な気液固反応ダイナミクスの解明と高耐熱接合への応用
金属分野 小濱 和之
研究の前提┃セラミックスは一般的に軽くて硬い特徴を持ち、茶碗や包丁など身近な製品に利用されています。加えて、高温に強い性質(融けにくいなど)があり、レンガなどの耐火部材から、エンジン低燃費化に不可欠の次世代材料まで、幅広く高温用途に向いています。その反面、曲げたり削ったりすることが難しく、融けにくいので溶接もできません。そのため、セラミックス構造物をつくる場合、ろう付という接合法がよく使われます。はんだ付と同様で、融けやすいフィラー(接合材)をセラミックス同士の間に挟み込み、それを融かして固めることで接合し、構造物を組み立てます。しかしその構造物は、フィラーが融ける温度(融点)より低い温度でしか使えないので、セラミックスの高温に強い性質をいかせません。
どんな研究?┃セラミックス向けに、接合時には低い温度で融け、接合後には高い温度でも融けなくなるという、新機能を有したフィラーを開発しました。これにより、高温下でも融けて外れない構造物の作製につなげることができ、高温に強いというセラミックスの優れた性質をいかしたものづくりができるようになりました。
詳しく言うと?┃新機能の核心は、フィラー成分の一部を蒸発させる点にあります。例えば図のように、ケイ素(Si)とマグネシウム(Mg)の粉末を複合したフィラーを提案しました。ケイ素の融点は約1400℃で、高温大気中でも使える高温に強い材料です。ケイ素にマグネシウムを混ぜると、1400℃より低い温度で融けるようになり、接合しやすくなります。マグネシウムはケイ素に比べて著しく蒸発しやすいので、低温で融けた液体中からマグネシウムだけが蒸発してなくなっていきます。すると、融けていた液体は徐々に固体のケイ素に戻り(等温凝固)、その融点はケイ素の本来の融点(約1400℃)まで上昇します。このように、材料科学に基づいてフィラーの物性(融点)を制御することで、新機能を生み出しました。
(特許出願中(産技研単独))
活用が期待できる分野┃ファインセラミックスの部品製造など
本研究は、一般社団法人溶接学会マイクロ接合研究委員会にて「2023年度マイクロ接合優秀研究賞」を受賞しました。
ナノスケールのハチの巣構造が拓く高解像イメージングの世界
規則性多孔質ナノ構造を有する新規X線光学素子を用いたX線回折イメージング法の開発
金属分野 山梨 眞生
どんな研究?┃材料の高機能化を進めるためには、その機能性を評価できる分析手法の開発が必要です。そこで本研究では、材料表面のどこで、どのような反応が起きているかを認識するX線光学素子を改良し、材料の機能性を高度に分析・評価できるX線回折イメージング法を開発しました。
詳しく言うと?┃本研究では、従来のX線光学素子に、陽極酸化により作製したナノスケールのハチの巣構造をもつポーラス型酸化皮膜を組み合わせ、新しいX線光学素子としてX線回折イメージング法に適用しました。その結果、分析手法としての空間分解能(解像度)が従来法と比較して、60%以上改善しました。
活用が期待できる分野┃ 例えば、金属材料表面の広範囲で起きる化学反応を高解像度に解析できると、より錆びにくい材料をつくる手助けになるため、金属材料の高温酸化過程における表面状態変化の観察(酸化皮膜の生成過程)などに応用できると考えます。また、既設装置にも容易に組み込めるため、多くの産業分野に対して汎用的な分析手法となることが期待できます。
CNFと金ナノ粒子による導電性のある樹脂用添加剤開発
金属被覆セルロースナノ繊維の開発とエネルギー伝導フィラーとしての展開
プラスチック分野 野口 広貴
どんな研究?┃スマートフォンなどの各種電子機器に用いられる樹脂部材の熱や電気特性を改善するために、植物由来のナノ繊維であるCNF(セルロースナノファイバー)を活用した新しい樹脂用添加剤の開発を目指しています。
詳しく言うと?┃CNFの表面に熱や電気特性に優れている金ナノ粒子を被覆することで、高性能な添加剤として活用できないかと考えました。プロセスを検討した結果、100 nm程度の金ナノ粒子をCNFの表面に緻密に被覆することができました。また、金ナノ粒子を被覆したCNFは導電性を有することを確認できました。
活用が期待できる分野┃プラスチック、複合材料など製造分野での活用を目指し、今後、プラスチックと複合した際の熱や電気特性の改善効果を検証していきます。
「欠陥」を知ることで、金属ナノ材料の特性を精密にコントロールする新指針を構築
液相還元法における核生成-成長プロセス制御による金属ナノ粒子内在欠陥マネジメント
金属分野 塩見 昌平
どんな研究?┃普段目にする金属材料は、材料全体にわたって完璧に原子が規則正しく並んでいるわけではなく、通常、規則性の乱れた箇所(たとえば、原子が抜けたり、異なる種類の原子が入っていたり、配列の向きが変わっているなど)が多く存在しています(格子欠陥)。こうした「欠陥」が金属材料の特性に大きく影響を与えることが知られています。本研究は、非常に小さな金属の粒である金属ナノ粒子の中の「欠陥」をコントロールすることで、所望の特性を持つ粒子を得ることを目的としています。
詳しく言うと?┃液相還元法という合成手法を用いてナノメートルサイズの粒子中の欠陥を制御できること、また、欠陥の導入により粒子の安定性や活性が変化することを実証し、ナノ材料の特性をより細かくコントロールするための新しい指針が得られました。
活用が期待できる分野┃金属ナノ粒子の合成技術分野など、金属生産、資源生産関連他での活用が期待できます。
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