先進産業に伝統技術を活用
次の世代に選ばれるビジネスへ
佐々木化学薬品株式会社 代表取締役 佐々木 智一 氏・研究開発部責任者 髙田 慎一 氏
薬品の問屋から研究開発企業へ、そして金属表面処理からライフサイエンスへ。昭和 21 年の創業以来、時代に合わせて常に事業を変化させ続けてきた佐々木化学薬品。どのような考えで社外との連携を拡げてきたのか、これまでの経緯や想いをお二人に伺いました。
POINT
- 産学連携や顧問契約等を通じて、外部人材の知識や考え方を吸収し、会社を成長させる
- 産技研との共同開発で、初めて検査機器の製造に挑戦し、バイオ事業へ展開
- 動物実験の代わりに、酵母を使って病原菌の抗体をつくるなどの伝統と先進をかけ合わせたイノベーション
ないものだらけで始まったので、オープンになるしかなかったんです
――外部との連携を積極的にされている理由は?
弊社は元々薬品の問屋でした。その頃の薬品問屋といえば、繊維業界で染料を売るのが主流でした。そんな中、弊社は他社が行っていなかった大学関係への研究用薬品の卸を始め、独自の路線で商売を切り拓いてきました。先代である父が会社に残したのは、「オリジナル商品の開発は自分にはできなかった」という言葉でした。その思いを受け継いで「研究開発企業になろう」と考えたのです。
しかし、社内を見回してもリソースが全く足りなくて。研究開発には、ものづくりやマーケティングの知見が必要ですよね。ないものだらけでした。こうなったら、社外の人材から教えてもらうしかないと考え、産学連携や顧問契約というかたちで関係性をつくっていきました。
部分的なノウハウだけでなく、組織づくりや経営についても指導をいただいて、経営者としての自分のクセにも気づかせてもらいましたね。私も社員も、外部に対して、オープンになることでレベルの高い知識や考え方を吸収して、成長することができたと思います。
――産学連携にも取り組んでおられますよね。
京都大学との産学連携をきっかけに髙田をはじめとして、社員を2年間大学院に派遣し、研究してもらいました。大学の先生から「学生に研究させてデータを渡すことはできるけれど、それだと御社にはスキルも人脈も残らないよ」とアドバイスいただいたことが、とても大切なきっかけとなり、ありがたかったです。そのおかげで、社員が大学でスキルを学び、人脈を作って持ち帰ってくれました。髙田のように研究はもちろん、対外的な事業の拡張を担ってくれています。社長の人脈とは別に、実務の現場での人脈形成も大事です。
――バイオ分野での共同研究に産技研も参画させていただきました。
そうですね。産技研と共同開発した、食品の安全性を検査する「微生物簡易検査システム バイオスカウター」(写真:下中央)も、共同研究先の京都大学との出会いが一つのきっかけです。弊社にとって初めての機器の開発。国の事業としても採択され、大きな一歩になりました。
伝統の技術と先進産業をかけ合わせる、京都らしいイノベーション
――金属の表面処理からバイオの分野へ進出された、きっかけは?
現状の主力商品は、産技研にも支援いただいた金属のリユースにつながる技術を使った表面処理の薬品です。しかし、環境保全や人体への影響が重視される時代にあって、今後の事業展開を見極めると、ライフサイエンスは間違いなく今から成長する産業ですし、これまで培ってきた薬品、つまり「液体」を扱う知見を活かせると考えました。
例えば、動物実験の代わりに酵母を使って、病原菌の抗体をつくる研究をしています。この方法だと、動物の命を犠牲にすることなく、コストも削減できるんです。酵母は酒造りに使われている伝統技術です。こういった伝統技術と先進産業をかけ合わせるイノベーションは、とても京都らしいですよね。
少子高齢化が進めば、必ず予防医学の重要性が高まっていきます。低コストで抗体をつくれるようになれば、たくさんの人の健康に貢献できるはず。治療はもちろん、診断にも活かせる開発をしていきたいですね。
――佐々木さんは常に視点を広く持って、社会にとって何が幸せかを考えておられますよね。
今の 10 代、20 代の若者が考えるビジネスモデルは、当たり前のように社会課題解決が前提になっています。若者たちは、これまでのトレードオフのやり方ではなく、持続可能性を大事にしながら利益を出すことを目指している。いつまでも従来のビジネスを続けていたら、働く場としても取引先としても次の世代に選ばれなくなっていくという危機感は持っています。
――会社が変化していく時には、困難や摩擦がつきものだと思います。どのように乗り越えてこられたのでしょうか?
僕の性格として、反対する人がいた方が嬉しいんですよ。産学連携を始めた時も、社内では反対の声が多かったです。むしろ、皆に賛成されると不安になります。多くの人が気づいているなら、もうビジネスチャンスにはならないので。
経営は「変化対応業」です。だから、常に変化する世の中に対して会社は常に “ないものだらけ”。以前は、助成金に応募しても落ち続けていました。初めて通った時はもう、大喜びでした。“ないもの”をそのままにして終わるのか、なんとかして “ないもの” を外に取りに行くかで、その先が変わってくる。色々な人や機関とのつながりで、我々に足りないものを各分野のスペシャリストが補ってくださいました。産技研には技術のスペシャリストが揃っている。頼もしいです。今後も産技研をはじめ皆さんのお力を借りながら、我々の可能性を拡げていければと思います。
――産技研も引き続き企業の技術サポートに取り組んでいきます。ありがとうございます。
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