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若手伝統工芸作家・職人のご紹介 京焼・清水焼 高地佐代子
【若手作家・職人インタビュー】
2021.6.29(火) interviewee:陶磁器作家 高地 佐代子氏
(京都市産技研内 陶磁器研修室にて)
Q.陶芸の道を目指されたきっかけは何ですか?
もともと大学では染色のろうけつ染めを学んでいて、卒業後は、友禅の工房に勤めていたのですが、その工房の経営面から続けることが難しく辞めることとなってしまったのです。
でも、もの作りが好きだったし、「京都で仕事がしたい」と思っていました。染色で一珍染め※1もやっていたこともあり、イッチン※2という共通の技法のある陶芸に魅力を感じていました。また、友禅染の手描きの技術を陶磁器の絵付けにいかせるのではと考えました。どうせやるなら、全部自分でできるほうがいいと思い、成形から学ぶことにしました。
人に教えることにも興味があり、教室などで教える仕事につながりそう…という思いもありました。
Q.影響を受けた人や作品などありますか?
よく聞かれるんですけど…、ないんです(笑)
作品の製作者、ではなく、目の前にある作品の技術がとても気になる。どうやって作っているのだろう…って。そこに興味があります。
Q.いつ頃から陶芸を始められたのですか?
9年前です。京都府立陶工高等技術専門校で学んだ後、1年間の修行を経て、京都市産技研の伝統産業技術後継者育成研修 陶磁器コース・応用コースを受講しました。陶磁器の制作の全般を学ぶうちに、徐々に「教える」ことより、「自分の作品を作りたい」「スキルアップしたい」という思いが強くなっていくのを感じました。
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Q.「自分の作品」というと、どのような作品でしょうか。
今、メインになっているのは、 tama10のお菓子のシリーズです。幼い頃から焼き菓子が好きなんです(笑)。陶磁器を学ぶ中で、土の調合によって、お菓子のクッキーっぽい生地が作れるな、と感じていました。研修修了後に、研究所の職員に助言をもらい調合方法を研究し、試行錯誤を繰り返して、リアルに近づけていきました。このお菓子の陶磁器を作品にしてシリーズ化していこう!と考えました。1つ買ったら終わりではなく、種類を増やすことで、集めたくなるような作品が作りたかったんです。
すべての人が好む無難なもの、ではなく、コアなファン向けのものにしたい気持ちもありました。
私は京都生まれでもないし、窯元の育ちでもない。そんな中で、どうやったら自分の作品を知ってもらえるか…。慎重に考える性格なので、ちゃんと売れるようにどんなものが売れるかリサーチしました。「これだったらどうかな?」と思いながら制作して、試行錯誤しながら今の作風にたどり着きました。
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Q.作品のPRのために、どのような活動をされていますか?
陶磁器の見本市ではなく、ハンドメイド商品のイベントに出すことが多いです。お客様は陶磁器だけを目当てに来た方々ではないので、作品への反応が分かりやすい。陶磁器に興味を持っていなかった人の目にも止まると思うのです。
ものを触ってもらえる場で直接販売して、かつネットでも売る。コロナ禍の今は、ネット販売が順調です。販売につなげるためには、SNSでの宣伝を怠らないことはとても大事。コメントをくれるユーザーにも、しっかり答えて、イベントの案内もします。ツイッターでは、モノづくり仲間に投稿をリツイートいただいたら、こちらからもその作家の利益につながる投稿にリツイートを返します。そうやって、お互いに相乗効果でモノづくりを盛り上げていけたらと思っています。SNSは直接面識のない人とのやり取りが大半ですが、丁寧な対応は本当に大切で、フォローしてくださる方々もそこを見ている、と思っています。
Q.今はSNSという便利なツールがあるというものの、そこにハードルは感じなかったのですか?
特に感じないです。生活の一部になっています。生活の合間をみてインスタグラムを見たりSNSへの返信をしたり…。ものづくりをしていると、どうしても1人の世界になるんです。なので、SNSを通してコミュニケーションすることで外とのつながりもできて、気分転換にもなっています。
Q.研修を修了されてから、京都市産技研と関わりはありますか?
技術面でわからないことがあったら相談しています。相談は気軽にできますね。釉薬のテストピースを見に来たり、デザインの意見を聞いてみたりもしますよ。tama10のお菓子シリーズにおいても成形技術や薬剤について商品に直結する相談ができました。
Q.これから挑戦したいことは何ですか?
tama10のお菓子シリーズの制作は生活の基盤となっていて陶芸作家を続けるために必要な大切な仕事です。作っていても楽しいですし(笑)。でも、作る楽しさだけではダメで、稼げる仕事にする必要があります。そのために、商品をちゃんと買ってもらえて使ってもらえる必要がある。例えば、毎日使うものですから、手に持った時に見た目よりも軽く仕上げて使いやすくするとか。お客様のニーズなど、いろんなことを考える必要があります。
一方で、tama10のお菓子シリーズとは別ブランドで絵付けをいかした和食器もやっていきたいと思っています。
そして、いずれは絵を描くことを中心としたアート作品も作れたら良いな…、と考えています。友禅で絵を描いていたこと、大学で染色を学んだこと、芸術系大学に進学させてくれた親にも感謝しています。自分にとってものづくりのきっかけだった絵を描くこと、それをいかせる制作をしたいと思っています。
Q.これから伝統工芸作家・職人を目指される方にエールお願い致します。
独立して仕事するには、自分の作品を作り続けてそれを丁寧に宣伝することが大切だと思っています。今は、SNSの力も借りられるし、人とつながることで買っていただける機会はいろいろとあります。でも作り続けていくことは大変で、私もモチベーションがいつも保たれているわけでもなく、うまくいったりいかなかったりといろんな時があります。SNSやイベントを通じてフォローしてくれるファンの方と交流することで作品へのヒントももらったりしながら続けています。つながりを大切に作品の宣伝も怠らず、製作を続けていくことで、道は開けるのでないかと思います。
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本日はどうもありがとうございました。
※1 一珍染め(染色):一珍糊といわれる、小麦粉やうどん粉を主原料にした澱粉に、石灰を混ぜたものを用いて染色する技法。
※2 イッチン(陶磁器):チューブ型、もしくはスポイト型の道具に泥状の材料を入れ、線状に絞り出し装飾する技法。
後記
カラフルでキュート。まるで本物みたい!一見無邪気にも思えるお菓子シリーズの作風の裏には、高地さんの仕事への堅実でひたむきな想い、そして京都市産技研陶磁器コースで習得した技術の鍛錬があることを知ることができました。ファンの声、作り手仲間の交流、そして京都市産技研のスキルアップ支援、すべてのつながりが大切という高地さん。クールで誠実なお人柄だけれど明るい笑顔がすてきな若手担い手です。
PROFILE
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