若手伝統工芸作家・職人のご紹介 京友禅 栫井浩
自宅の一室に工房を構え、職人仕事を中心に活動している栫井浩さん。弟子入りという形で手描友禅業界に飛び込みました。その後、京都市産業技術研究所(旧繊維技術センター(以下、産技研))での研修などを経て独立。その経験や学んだこと、京都市京友禅染(手描)技術者研修同窓会虹彩会『彩葉』の活動を通して感じたことや、今後の目標などについて語っていただきました。
美術に関係する仕事がしたい
「弟子入りのきっかけは、新聞で挿友禅工房の求人募集記事を見つけたことでした。すぐに応募して、面接を受けたところ、先生にやってみるかと言っていただいたので、修業を始めました。」
美術系の専門学校で2年間学び、卒業後はサービス業の会社に就職したが、美術関係の仕事がしたいと思い、転職先を探していたところ、山崎修一先生に出会った。専門学校の専攻は彫刻で、友禅は学んだことがなかったが、絵が描ける仕事だということと、着物は鹿児島の祖父母が普段から着ていたため親しみがあり、興味があった。
先生の指導は厳しく指導するというよりは、聞いたことには答えてくれるが、基本的に仕事は見て覚えるというもの。実践を通して学んでいく修業だった。先生には当時5~6人の弟子がいて、先生の作家仕事の手伝いや、悉皆屋からの挿友禅の仕事などをしていた。工房に入った時はまず胡粉を塗る作業からさせてもらった。友禅の世界は胡粉に始まり胡粉に終わるといわれている。
山崎工芸でお世話になっている時、京都彩芸美術協同組合(現在、京都手描友禅協同組合)青年会に先生や先輩の勧めで入会した。青年会では年に1度の展示会を中心として、様々な活動をしており、親組合の先生による技術指導や、講師を招いたセミナーの開催、大阪の浴衣工場の見学など、勉強になることばかりであった。青年会の活動を通じて学んだことが今も仕事にいかされている。
仕事の相談も、人生相談も
修業中に当時の繊維技術センターで開催されていたみやこ技塾本友禅染(手描)技術者研修(以下、研修)を受講した。職場の先輩が研修を受けており、以前から話は聞いていた。同期(37期修了生)の受講者には家業で友禅を営む方や、蒸し、悉皆、地直しなど様々な職種の方がおられ、自分の知らない話を聞くことができ、非常に良い経験になった。仕事を通じてある程度の知識や経験があったこともあり、充実した研修となった。
「普段の仕事では型や、ゴム糸目という技法を使っていましたが、研修では赤糸目を使うなど、仕事では使わない技法を学ぶことができました。金彩や引染も仕事ではしていなかったので、手描友禅をトータルで勉強でき、仕事をするうえでもプラスになりました。研修後も産技研の先生に仕事の相談はもちろん、人生相談にも付き合ってもらっています。」
グループのリーダーを務めている『彩葉』は、38期の方々とグループを作って活動しようと盛り上がり、結成された。結成後、他期のメンバーが加入するかたちで36期~40期の修了生が集まり、現在のメンバーとなった。活動は年1回の作品展や親睦会を行っている。作品展企画では皆で一緒にものづくりを行い、来場者に友禅体験をしてもらうなど、友禅に興味を持ってもらえるきっかけづくりを目指している。皆で坂本龍馬の着物を製作した時は、大河ドラマの影響もあり、メディアに取り上げられたこともあった。昨年の作品展ではこれまでの経験をいかし、より多くの方に友禅の体験をしてもらい、さらにアンケートでお客様の声も集めることができた。普段接点がないお客様と接することは、いい刺激になり、また他のメンバーの作品を見ること、そして近況を聞くことで、自分も奮起するという。
活動開始時は大勢のメンバーがいたが、年々業界の状況が厳しくなり、仕事を辞める方や、他に引っ越す方も多く、人数が集まらない時もあった。しかし、どうにか乗り切り、結成後12年間毎年活動を行っている。
「友禅業界を離れたり、展示する作品が作れなくても活動に参加してほしいと思っています。体験の手伝いなどでちょっと来ても参加できるような、みんなが参加できる形がいいですね。活動から離れていってしまうことは悲しいし、もったいないので。研修やグループ活動で出会った仲間のつながりをずっと大事にしていきたいです。」
自己管理
弟子入りして約8年後、様々な理由が重なり、独立した。当時5、6人いた先輩の多くは、約10年の修業の後、独立された。修業時代、独立された先輩の工房を訪れると、いつかは自分もと憧れ、将来のビジョンを描いていた。様々な方から仕事の声を掛けてもらったことが独立を決意した大きな理由だった。
「独立してからは自由な時間が多い分、自己管理が課題ですね。独立前は先生の自宅で作業していたので、就労時間が決まっていました。独立後は作業時間が増えて、たくさん作業ができるかなと思っていたんですけど、外回りの仕事が増えたので、作業時間はそれほど変わりませんでした。でもその分いろんな方との付き合いが密になったり、新たに広がったりしています。」
悉皆からの仕事は、取引先によっても変わるが、色をある程度指定されて、雰囲気に合うように色を挿していくことが多い。配色が決まっている仕事もあれば、配色を相談して決める仕事もある。一反仕上げるのに掛ける日数は約1~2日。納期もあるが、ムラ染を発生させないためにも刷毛を手早く運ぶことが大切。手が速くないと仕事にならない。
自宅の2階の1室にある工房には、廃業する糸目屋さんから頂いた友禅机、山崎先生に頂いた修業時代に使っていた小棚などが置いてある。枠場※までそろえようと思うと広さが必要になり、高額になってしまう。
※ 枠場 左右に柱を立て、数段ずつある太鼓とよばれるローラーに、両端をつなぎ合わせた反物を掛けて張り伸ばし、挿友禅などの作業を行う道具。同じ場所に腰掛け、長い反物の加工を連続的に作業できるのが特徴。
「独立してからはわからないことが多く、家業で友禅を営む方がうらやましいと思うことがありました。だからこそ負けたくないという気持ちになり、それがモチベーションになることもありました。」
自分で作ったものを世に出していきたい
現在、悉皆からの挿友禅の仕事を中心に活動している。その他に自分で作ったものを自ら売り込む作家活動もしてみたいと考えている。しかし、一児の父親で家庭もあり、職人仕事と自らの作品製作の両立は時間的にも難しい。
「どうしても自分の活動は後回しになってしまいます。それでも積極的に自分の作品を製作している方はいるので、できていないのはそこに言い訳や甘えがあるからだと思っています。時間がないと言っているだけでは何も始まらないので、時間を作って自分の作品を製作していきたいと思っています。」
過去にお世話になった先生方が現在でも伝統工芸展などに出展されており、また身近な同世代の方も頑張っているので、自分の作品を世に出すことへの憧れや願望がある。自分の作品を発表し、認められることで仕事にもつながる。
自分の作品は、すべての工程を自分で行いたい。作業場では引染ができないため、挿友禅で仕上げたいと思っている。まずは構想10年くらいの草稿があるので、近いうちに必ず着物にしたいと語る。
つながりをもって、次へつなげていく
「自分の年齢は、昔なら既に、弟子を取ったり、教える立場になってもいい年齢だと思います。弟子を取ることによって若い方たちに機会を与えることもできるのに、そんな余裕もなく、不甲斐なく感じることもあります。」
これから友禅の道を目指す方にとっては、弟子として勉強できる場は少ないかもしれない。だからこそ産技研の研修という勉強の場を活用し、様々なつながりを持つことによって、支え合い、友禅を続けていってほしいと願う。
「どこかで自分ともつながることができれば、話をしたり、活動を見せることくらいはできるかもしれないですね。それによって、技術などを次の世代につなげていくことができると思うので、自分自身も続けられるように頑張っていきたいと思います。
今後、改めて組合に入って、伝統工芸士の資格を取ったり、公募展に出したりして公に認められるよう頑張ることで、お世話になった方や、家族に恩返しをしていきたいです。」
PROFILE
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