「手作り」は伝統工芸の大きな魅力の一つですが、陶磁器・金属工芸の鋳込み製法や漆芸の乾漆造形など、原型制作が必要なプロセスでは手作りで完成度を高めるために何回もの手戻り(やり直し)が避けられず、コストや納期の大きな負担となっていました。
そこで、工程の一部に3Dスキャナー・3D-CAD・3Dプリンターを組み込むことで、ラフなデザインからでも精密な原型を造形することが可能となりました。
手戻りコストの削減はもちろん、新鮮なアイディアをいち早くカタチにしたい若手作家の支援にも役立っています。
こんな課題を解決します
●原型制作のやり直しや手戻りを減らしたい
●アイディアはあるが、従事経験が短いためイメージ通りの造形ができない
1.手作業による原型作成~型取りまでをデジタル手法に置き換える
2.プロセスの詳細
【伝統手法】手作りでの形状検討
まずは作り手の感性に沿って、粘土や発泡スチロール等を素材に手作りで原型の元を制作する。多少の粗さは気にせず、この場合は「掬い易い返し曲面」を中心に、大まかに形づくる。
【デジタル】3Dスキャン
手作りした原型を3Dスキャナー(※1)でデジタルデータ化する。直径30cmまでの大きさなら据え置き型で、それ以上の大きさや、持ち込みにくい対象物はハンディタイプのスキャナーが適している。
【デジタル】3D-CADでクリンナップ
スキャンしたデータを元に、3D-CAD(※2)で曲面を張り直す。手作り原型でのポイントを押さえつつ、滑らかにトレースすることで原型の完成度を高める。割掛け(焼成時の収縮を考慮した拡大)も行う。
【デジタル】3Dプリント
クリンナップした3Dデータを、3Dプリンタ(※3)で出力する。
メーカー:Stratasys
機種:F370
方式:熱溶解積層
材質:ABS、PLA、ASA等
積層ピッチ:0.178~0,254mm
水性ウレタン塗料で積層跡の段差を滑らかに仕上げる。
【伝統手法】鋳込み
型取りからは伝統技法に戻る。3Dプリント品から石膏型を取り、泥漿で鋳込み成形する。
【伝統手法】焼成・完成
素焼き後、釉掛けし、本焼成、完成。
完成したカレー皿はクラウドファンディングで量産用石膏型の資金調達支援を行い、商品化しました。京都市産技研では、技術支援だけでなく、商品化までの伴走支援を行っています。
(晋六窯へリンク)
3.まとめ
陶磁器製作における鋳込み成型において、3Dスキャナ・3D-CAD・3Dプリンタ等のデジタル機器を活用することで、形状の完成度を高め、大幅な効率化が期待できる。
今回のプロセスのメリットは以下である。
メリット
●原型制作のやり直し(手戻り)を軽減
→原型制作時間およびコストの削減が可能
●手作りの粗原型から滑らかな形状を実現
→制作の習熟度が浅い作り手の商品化を支援
デザイン条件
●原型を3Dスキャンする場合、黒色及び光沢のある対象物はスキャンできないため、スプレー塗布等の前処理が必要
協力企業の声
今回の「感動!カレー皿」の制作においては、京都市産技研のデジタル機器と技術を活用することで、手戻りを大幅に削減してスムーズに商品化することができました。
3Dスキャナー・3Dプリンターは導入や保守コストが重く、3D-CADは習得に時間もかかり、自社だけで全て行うには限界があります。
京都市産技研の新しい設備、経験と技術をその都度利用できることは新商品開発の大きな強みです。
また様々なアドバイスも頂ける環境が整っていることは伝統工芸品を制作する上で安心感があります。
使用機器
※1:3Dスキャナー
3Dスキャナーは、レーザー光を照射して立体形状をデジタルデータ化する装置です。黒色物や光沢物以外の物なら最高0.08mmの精度の点群データを取得できます。

3Dスキャナー(左:据え置き型 右:ハンディ型)
※2:デジタルデータ加工用ソフトウェア(3D-CAD)
Autodesk Fusion360やRhinocerosなど。
※3:3Dプリンター
メーカー:Stratasys
機種:F370
方式:熱溶解積層
材質:ABS、PLA、ASA等
積層ピッチ:0.178~0,254mm
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