地方独立行政法人 京都市産業技術研究所
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インタビュー 第1回 古川剛

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天目釉の研究に日々邁進され,現在は(地独)京都市産業技術研究所(以下,産技研)の伝統産業技術後継者育成研修の講師としても活躍されている若手陶芸作家の古川剛さん。制作への思いや研修生時代の思い出,後輩へのアドバイスなどを語っていただきました。

研修で釉薬を学べたことが一番の経験

 京焼・清水焼の染付の一般食器をつくっている窯元に生まれたが,いつか自分自身のカラーのあるものをつくりたいと陶芸作家の道を志す。京都府立陶工高等技術専門校(以下,訓練校)で2年間学んだ後,21歳の時に京都市立工業技術センター(現在の産技研)で実施されたみやこ技塾京都市伝統産業技術者研修陶磁器コース本科や釉薬実務者研修(以下,研修)を受講された。

furukawainta2.jpg「研修で釉薬の調合や実験方法を学ばなければ,オリジナルの釉薬をつくれなかったと思うので,何よりもためになったのは釉薬の勉強でした。」

 当時は約20名の研修生と共に実習や実験を行っており,自由に挑戦できる環境下で20名分の釉薬の実験を見ることができたことも貴重な経験となった。

「飲み会も多く,そこで将来の夢を語り合った同期との交流は10年経った今でも続いています。制作や材料の話など,何でも相談できる大切な存在となっています。」

ライフワークとなる天目釉との出会い

 訓練校時代,本に載っていた通りに調合して焼いてみたことが天目釉との出会い。焼成するごとに異なる輝きを見せる天目釉に魅了された。その後,研修に通い始めてからも天目釉について詳しく学び,現在も自宅に窯を設備して天目釉の研究。油滴天目や禾目天目の組成をベースに鉄や補助剤の配合,微妙な温度管理などアレンジを加え,古典を意識しつつ,独自の天目釉を開発され,"虹彩霧滴釉(こうさいむてきゆう)"もオリジナルで,独特な輝きを見せる。


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天目釉(てんもくゆう)
鉄を多く(約5%以上)含んだ黒色の釉薬を全般にいう。国宝にもなっている曜変天目(七色の光彩を放つといわれる)をはじめとして,油滴天目(水の中に浮いた油のような斑点模様がある),禾目天目(稲の穂先にある毛のような釉の流れた縞模様がある)などがある。

「テストピースがあちこちにあります。自宅でお酒を飲みながらくつろいでいる時,昔のテストピースを見ることがあるのですが,日々の生活の中に仕事が侵食してきている感じがします。ライフワークというか,全てに近いくらい焼物と向き合っています。」

 シンプルで良いものをつくるために,かたちや釉薬の質感,見せ方を常に研究しており,最近は家具などのインテリアのしつらえにも目を向ける。作品そのものの使い勝手もさることながら,シーンやターゲット,そしてどんな思いで使ってもらえるかを意識し,天目釉が一番美しく見えるかたちを目指す。

独立するにあたって

 家業を手伝っている時は自分がつくったものが,どこで,どのような購買者に,どのような値段で売られているか分からなかった。作家として作品を販売するにあたって,自分自身の名前で売り出し,購買者の顔が見えるところで仕事がしたいという思いのもと,一から販路を開拓するために小売店や専門店を渡り歩いた。これはと思う作品を持って,店舗に飛び込みで店主に自身の率直な気持ちを伝えた。初めて尋ねた専門店で,ふたつ返事で「持って来たものは全部貰います。」と引き取ってもらえたのが約7年前の出来事。その時の嬉しい気持ちが今も心に残っている。

furukawainta4.jpg「どこでだれが作ったのか、また作品の魅力や作品への想いは何なのかを伝えてくれるお店を探しました。最初に取り扱いをしてくれたお店には大変感謝をしているので,特に大切にしたいと思っています。」

 一方で,手作り市やクラフトフェア,陶器市に出向き,直売方式で成功している知人や,FACEBOOK・インスタグラムなどのSNSによる宣伝効果を上手く活用している知人もいる。

「本来,つくり手はつくることに集中できることがベストだと思います。でもこれからの時代においては,自分自身から発信していくことも重要かと感じています。」

 若手伝統工芸作家が制作と販路開拓を両立して軌道に乗せるためには,相当な努力を要する。後継者育成は研修を修了してからが大切であり,販路開拓のノウハウについても,後輩にアドバイス,バックアップできる仕組みの必要性を訴える。

作家・職人を目指す方へ

furukawainta5.jpg 現在は,作家活動の傍ら伝統産業後継者育成研修陶磁器コースの成形実習講師も務める。教え子を含めて,これから伝統工芸作家を目指す後輩達には,基本的な技術を習得してから創作活動に取り組む大切さを力説する。

「研修を出たらすぐに自分の作品をつくりたいと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが,例えば同じ形の湯呑やお皿を100個,200個作り,ろくろ成形や絵付けの技術を身につけることを心掛けてほしいです。そういった技術が身につくことで今までの作品よりも緊張感のある作品をつくることができると思います。」

一歩一歩成長したい

 現在のような作品をつくることができるようになったのは,産技研のおかげだと語る。研修修了後も多い時には週3~4回通って,伝統釉や鉄釉に詳しい当時の職員(横山直範氏)に分からないことを積極的に質問し,諦めないで研究や制作活動を続けた。そうして得られたノウハウは,現在に至るまで日々の作品づくりに生きている。

「中2で父親を亡くしているので,この道を目指す時に『家に帰ってきても教えてくれる人がいいひんからしっかり教わってきなさい。』と母に言われていました。研究所で熱心に聞いて先生はそれに応えてくださった。今の仕事があるのは間違いなく産技研や訓練校をはじめとする応援してくださる皆さまのおかげです。自分自身,まだまだ未熟でできないことも多いので,今まで取り組んできたことや蓄積してきたデータを整理して,一歩一歩成長できるように仕事に取り組みたいと思います。そうした積み重ねを作品に反映できたらと思っています。」

(平成28年11月,古川氏窯場にて)

古川 剛(ふるかわ たけし)

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平成18年 みやこ技塾 京都市伝統産業技術者研修 陶磁器コース本科 修了
平成19年 みやこ技塾 京都市伝統産業技術者研修 釉薬実務者コース 天目釉専攻 修了
平成20年 みやこ技塾 京都市伝統産業技術者研修 釉薬実務者コース 天目釉・青磁釉専攻 修了

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